人間は、食べ物を味わうとき、甘さ・しょっぱさ、といった味覚とともに、形・色などの視覚、香りなどの嗅覚、熱さ・冷たさなどの温度感、舌触り・歯ごたえなどの食感を同時に感じています。その中のどれが欠けても味気の無いものになってしまいます。目を閉じて鼻をつまんで食べると、何を食べているのかわからなくなるという現象からも、人は総合的においしさを満喫していることがわかります。その感覚の中でも、今回は歯に関係しているということで、「歯ごたえ」についてのお話を。
そもそも「歯ごたえ」なる食感はどこで感じているかというと、歯そのものである硬組織(エナメル質や象牙質)ではなく、歯の周りにある歯根膜というクッションの役割りをする組織で、そこにあるセンサーにより圧力を感じています。また咀嚼筋のセンサーも一緒に働いて複合的に「歯ごたえ」を感じているのです。ですから、入れ歯やインプラントには歯根膜が無いので、天然の歯に比べて感度が鈍くなるのは当然のことと言えます。
宇宙飛行士の食事も、最初の頃はチューブに入ったペースト状のものでしたが、最近は形のあるものになっているそうです。食事としての「歯ごたえ」を求めるからですが、おいしさには噛むという行為が必要不可欠なんでしょうね。
「歯ごたえ」のある食材と言えば、コシのある讃岐うどんであるとか、焼き鳥の軟骨であるとか、噛むたびに味わい深くなるスルメであるとか、好きな人にはたまらないモノばかりです。私がここ数年はまっているものに「切り干し大根のピクルス」があります。しかも輪切りの切り干し大根を使ったものです。この時期、冷蔵庫には常備してあり、コリコリの食感がたまらず、食べ始めると箸が止まらなくなります。なんとも言えない「歯ごたえ」で、もうサイコーなんです。
みなさんも輪切りの切り干し大根を見つけたら是非トライしてみてください。旨いですよ!
歯学博士 沼澤 孝典